ガス会社のだつたんそ

                  Enviro-News from Junko Edahiro


                      No. 2773 (2020.12.02)

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管総理の「2050年実質ゼロ」宣言を機に、政府も産業界も大きく脱炭素化に向けてシフトを切りつつあるようですね。毎日のように新聞に「○○社、脱炭素へ!」という記事が載る日が来るなんて、これまでを考えると感無量です(が、もっともっと進めていかなくては!ですね)

私が社外取締役を務めさせていただいている東京ガスは、1年ほど前の2019年11月27日に、2030年までの経営ビジョン「COMPASS 2030」を発表し、「3つの挑戦」のトップに、「CO2ネット・ゼロ」を打ち出しました。「東京ガスグループの事業活動全体で、お客さま先を含めて排出するCO2をネット・ゼロにすることに挑戦し、脱炭素社会への移行をリードします」。
https://www.tokyo-gas.co.jp/IR/compass2030/

ご存じのように、天然ガスは石炭や石油に比べれば少ないものの、CO2を排出する化石エネルギーです。そのガス会社がCO2実質ゼロをめざす!と打ち出すことに対しては、いろいろな議論がありましたし、打ち出したあともいろいろな議論が巻き起こりました。

COMPASS 2030」では、「なぜ、目指すのか?」という見出しで、以下のように東京ガスグループとしての問題意識を示しています。

~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~

2030年へ向けて“新たな変革の時代”の入り口にいます。
この先の時代を、大きな飛躍のチャンスと捉えています。

お客さまの価値観の変化や、気候変動等の社会問題の深刻化といった市場環境の大きな変化を受けて、今後はエネルギーが、さらにはエネルギーを扱う会社がどうあるべきかを問われる10年になると考えています。私たちは、S+3E(注1)を事業の根底としつつ、市場環境の変化を大きな飛躍のチャンスと捉え、2030年に向けた変革を進めていきます。


~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~


それから1年、9月には中国が「2060年までにネットゼロ」という目標を表明、冒頭に書いた管総理の脱炭素宣言、米国でバイデン政権が誕生しそうという見通しなど、ビジネスを取り巻く環境の激変もあって、「実質ゼロ」は環境オタク企業の夢物語や環境NGOの押しつける無理難題ではなく、あらゆる企業にとって「市場に残るための必要条件」となりつつあります。

先週11月24日には、日本ガス協会も脱炭素宣言を出し、21年度中に行動計画を策定することを発表しました。一つのガス事業者だけでなく、ガス事業者の集まりである日本ガス協会が脱炭素を打ち出したこと、本当に素晴らしい!と思います。

おそらく、自己否定じゃないか、という反対論もあったことでしょう。石炭や石油よりはマシだ、再エネ拡大のための調整電源として重要なのだ、と声もあるでしょう。

天然ガスは短期的には必要かつ重要です。が、長期的には、排出するCO2の回収・再利用を必要なエネルギーを最低限に抑えてできるようになるまでは、温暖化に寄与するエネルギー源であり、「脱炭素時代」には社会的に受容されないものになっていくでしょう。

そのような問題意識で、あえて大胆なビジョンを発表された11月24日の日本ガス協会広瀬会長の会見発言要旨をご紹介します。
https://www.gas.or.jp/newsrelease/20201124.pdf


~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~


2020年11月24日
日本ガス協会

日本ガス協会 広瀬会長 会見発言要旨
https://www.gas.or.jp/newsrelease/20201124.pdf

I.菅首相の「2050 年カーボンニュートラル、脱炭素社会を目指す」旨の宣言を踏まえたガス業界の考え方について

<はじめに>
菅首相による「2050 年カーボンニュートラル、脱炭素社会を目指す」旨の宣言は、大変画期的、歴史的なものである。ガス業界はこれまで環境負荷軽減に向けた様々な取り組みを実施してきたが、今回の宣言を機会にさらに加速をしていきたい。宣言から間もないため、日本ガス協会としても組織的な議論やコンセンサスはこれからであるが、現時点の宣言に対する考えを述べる。

1872 年に横浜でガス灯が灯って以来、我々は、「ガスを製造し、導管で供給し、需要家の用途に応じてサービスを提供する」というビジネスモデルで暮らしと産業を支えてきた。様々な環境変化や災害、他エネルギーとの競争の連続であるガス事業の歴史は、言わば「試練に正面から立ち向かい、時代の変化とともに自らを変えてきた」歴史であり、我々のDNAでもある。一方、将来に目を向けると、脱炭素や頻発する自然災害への対応、デジタル化など大きなうねりが起こっており、サステナブルな社会の実現に向けた社会や産業構造の変革が急務である。

時代がどうあれエネルギーは不可欠であり、S+3E の高度化は重要課題。
特に環境適合性に関して、菅首相が示した「2050 年カーボンニュートラル化」の方針は極めてチャレンジングな目標であり、産業界においてもこれまでの温暖化対策の延長線上ではない、非連続な取り組みが必要となる。

エネルギーは「電力」だけでなく、民生・産業分野のエネルギー消費量の約 6 割を占める「熱」、そして「運輸」など多様な形で利用されており、エネルギーを使用形態に合わせて適材適所に使い分け、エネルギー全体で最適化することが重要である。さらに、レジリエンス強化の視点でも、エネルギーネットワークの多重化は非常に重要である。また、エネルギーは生活と産業を支える血液であることから、この供給を途絶えさせることなく、円滑に脱炭素化社会に移行(トランジション)していく必要がある。こうしたエネルギーの多様化・多重化と、円滑なトランジションのために、我々ガス業界は、将来のカーボンニュートラル脱炭素社会の実現に積極的に貢献していく。

1.カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に向けて

(1)基本的考え方
2050 年までの 30 年間をトランジション段階と位置づけ、以下の取り組みを推進する。

(1) ガス体エネルギーの革新的イノベーション
水素、メタネーション、バイオガス、CCUS等ガス体エネルギーの革新的イノベーションに挑戦し、そのインフラ整備を図りつつ逐次導入していくとともに、当面はカーボンニュートラルLNGも活用し、2050 年カーボンニュートラルの実現を目指す。まだ流動的な要素も多く、確定的なことは言えないが、現時点の目標イメージとしては、2030 までに 5~20%、2040 年までに 30~50%、2050 年までに 95~100%の導入を目指したい。

(2) 天然ガスシフト・高度利用
累積CO2 低減のために、需要側の取り組みとして徹底した天然ガスシフト、天然ガス高度利用を推進する。

(3) 国際貢献
水素をはじめとした世界的なガス体エネルギーの利用拡大に鑑み、日本の優れたガス関連技術を海外移転し、国際貢献と日本のプレゼンス向上に寄与する。

(2)ガス体エネルギーの革新的イノベーション
革新的イノベーションによって「パイプの中を流れるガス自体の脱炭素化」を進める。代表例であるメタネーションでは、パイプラインやガス機器などの既存設備がほぼ利用できるため、社会コストの抑制にも貢献できる。加えて、開発余地も大きく、日本の成長につながる分野である水素の直接利用にも取り組む。さらにバイオガスも活用し、ガス自体の脱炭素化を推進する。

(3)天然ガスシフト・高度利用によるCO2 低減
燃料転換に加え、LNGバンカリングなど新たな用途への需要拡大による天然ガスフトを推進。また再生可能エネルギーの調整力として期待され、かつレジリエンス強化にも資するコ-ジェネや燃料電池等分散型エネルギーシステムの導入拡大、ガスシステムの更なる高効率化やスマートエネルギーシステムの普及促進を図ることで、着実なCO2 削減に貢献する。

2.将来のガス供給の絵姿
イノベーション技術とガスインフラを組み合わせた将来のガス供給の絵姿を考えると、以下のように想定される。

(1)沿岸部:海外輸入水素を起点として水素導管網を構築、国内でカーボンニュートラルメタン製造(メタネーション)、受入

(2)都市部:カーボンニュートラルメタンを既存のガス設備を利活用して、安価に脱炭素化

(3)地域:カーボンニュートラルメタンと水素を使い分け、各導管網内で地産地消し、地域を活性化

3.カーボンニュートラル、脱炭素社会実現に向けたチャレンジ

我々のカーボンニュートラル化への挑戦は、ガス火力発電の原料が脱炭素化されるなど、電力の脱炭素化への貢献にもつながる。
このような脱炭素社会実現に向けては、「ガス導管網拡充等ガス体インフラの整備」、「水素等のコストダウン」、「国・自治体や他の産業界との連携・協調の推進」等が重要であり、我々はこれらの実現に向けチャレンジする。合わせて、カーボンニュートラル化に向けた具体的なアクションプランの検討を進める。

<おわりに>
ガスシステムは、脱炭素社会の実現のみならず、レジリエンス性の強化や、地方創生への貢献など、社会的課題の解決と経済発展を両立させることが可能である。今後も「環境と経済の好循環」にも寄与するガス事業の発展に向けてチャレンジし続ける。


以上