たなかあきらのおおぶろしき

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中国覇権下に移る日韓

2020年10月24日   田中 宇

前回の記事で「日本や韓国も対米従属だが、コロナの自滅的な都市閉鎖をトランプらから強要されていない。その理由は、トランプらの構想が多極化であり、日韓は中国の傘下に入る方向なので、日韓を自滅させず無傷で中国圏に押し込み、中国圏の力を全体として維持させたいからだろう。日韓が中国傘下に吸い寄せられれていく。世界の状況が見えにくいコロナの体制下で、覇権の転換が黙々と進んでいく」と書いた。新型コロナへの対策として、米欧やその系列の国々(豪州NZなど)は、経済が自滅する都市閉鎖策を、トランプやWHOといった覇権運営側から強要されている。感染者数を誇張してまで、愚策とわかっている都市閉鎖をやらされている。だが、日本や韓国は都市閉鎖を強要されず、静かに何とか経済を維持している。強要されない理由は、きたるべき多極型世界の中で日韓は中国の覇権下に入ることが決まっており、トランプらは中国圏に力を温存させて多極化をうまく展開させるために、中国傘下入りが決まっている日韓の経済を自滅させない策をとっているのでないか、という意味だ。今回はこの、日韓とくに日本が、米国の覇権下から中国の覇権下に移ることについて考えてみる。 (決定不能になっていく米国

日韓自身は、米国の覇権下から追い出されることを望んでいない。中国も、日韓、とくに日本が米国の覇権下に居続けることで良いと思っていた(大東亜共栄圏を再来させたくないので)。日韓を中国側に押しやろうとしているのは、米国の覇権勢力(トランプらが軍産から乗っ取った米諜報界)である。トランプらは、覇権多極化の一環として日韓を中国側に押しやっている。トランプらは、見かけと本質が正反対のネオコン的な戦略を好んで仕掛ける。日韓の押しやりの場合は「中国敵視策・中国包囲網を強化するためアジア版NATOを結成する」やり方だ。アジア版NATOができて日韓が加盟すると、米国は日韓と個別に結んでいる安保条約を解除し、駐留米軍の撤退に道が開かれる。トランプらは、中国包囲網を強化すると言いつつ、実は日韓を米国の傘下から追い出していく。 (コロナの歪曲とトランプvs軍産の関係

日本も韓国も、アジア版NATOに対してとても消極的だ。理由は2つある。一つは上記の、アジア版NATOに入ったら米国との個別の安保条約を解除されてしまうからだ。トランプは以前から、日韓から恒久駐留の米軍を撤退するのが自分の目標だと言い続けている。個別の安保条約の解除は、米軍の恒久駐留の終わりになる。その後の日韓には、米軍の海兵隊などが数百人程度の小部隊でやってくるローテーション形式になる。豪州や東南アジアと同じ形式だ。日韓は、自力で防衛する必要が強まる。 (NATO, Energy Geopolitics, And Conflict In Caucasus

日韓がアジア版NATOを好まないもう一つの理由は、日韓の経済が中国市場に依存する度合いが強まっており、中国と対立するわけにいかないからだ。コロナ危機が長引くほど、この傾向が強まる。日韓の経済は従来、米国への輸出に依存していたが、米国はコロナ危機の都市閉鎖で大恐慌に陥っている。コロナ危機は少なくとも来夏まで続くと言われており、米国はもう世界から旺盛に輸入する経済覇権国でない。対照的に中国は、都市閉鎖を早々と切り上げて経済成長を復活している。習近平は、これまで米国などへの輸出が主導していた中国経済を、内需主導型に転換する「双循環」の政策を打ち出している。 (中国が内需型に転換し世界経済を主導する?

この政策は、米国のコロナ大恐慌と中国の早期の経済復活という対照性の長期化・固定化が見え出した今年8月に打ち出された。日韓など世界の各種製品の輸出国が、コロナ都市閉鎖による対米輸出の長期的な減退に直面して困窮したところに、中国が「代わりにうちが輸入しますよ。そのかわり敵視をやめて仲良くしてね」と言ってきたわけだ。日韓など世界の輸出諸国は、喜んで対中国輸出への依存を強めた。輸出諸国は、中国を敵視できなくなった。 (米欧日の儲けを中国に移転するトランプの米中分離

その後の最近になって、トランプ忠臣のポンペオ国務長官らが、日米豪印のクワッドに韓国や東南アジア諸国などのアジアの米同盟諸国を連ねてアジア版NATOとして中国敵視の公式な条約組織にせねばならないと言い出した。トランプらは、アジアの同盟諸国が経済面で中国と敵対できない状況になったのを見極めた上で、中国敵視組織の条約化、NATO化を提案し始めた。この提案は今後、トランプの再選が決まった後に、さらに強硬な姿勢で日韓など同盟諸国に対して要求されるだろう。(バイデンが勝ってもこの提案は維持されるだろうが、どの程度本気で推進されるか疑問だ) (Pompeo Seeks 'Asian NATO' To Counter China In Talks With Japan, India & Australia

中国の内需拡大がどの程度の速度で進むか、成功するかは未知数だ。中国が内需主導に転換しつつ従来のような高度成長を続けられるかどうかわからない。しかし、米国経済が今年も来年も大恐慌的な大幅なマイナス成長になるのは確実だ。中国は低成長でも十分に世界最速の経済成長の国になれる。すでにIMFなどは、今年のうちに世界最大の経済大国が米国から中国に交代するという試算を発表している。日本を代表する企業の一つになっているユニクロは最近、日本より中国の方が店舗数が多くなった。こうした状態は今後さらに拡大する。 ("Americans Must Wake Up To The Ugly Reality" - China Is Now The World's Largest Economy

日韓だけでなく、豪州や東南アジア諸国など、アジア版NATOに誘われているすべての国々が、経済を理由に、中国と敵対したくないのでアジア版NATOに入りたくないと、公式・非公式に表明していく。アジア版NATOが具現化する可能性はとても低い。しかし、これからの2期目のトランプ政権は、同盟諸国に対する中国敵視の強要をやめないだろう。日韓がアジア版NATOに入らないなら、思いやり予算や防衛費負担を大幅に増額しろ、さもないと日韓との安保条約を解消して駐留米軍を撤兵するぞ、と言い続けそうだ。日韓は、米国がゴリ押しするアジア版NATOに入っても入らなくても、駐留米軍の公式もしくは事実上の撤退に直面する。アジア版NATOに入る場合は米軍駐留がローテーション化されて事実上の撤退、入らない場合はトランプの怒りを食らって公式な撤退になる。ならば、中国との良好な経済関係の維持を優先し、アジア版NATOには入らない、ということになる。米国は日韓から出て行く。

トランプら米国の覇権勢力は、覇権の多極化の一環として、日韓を米国の傘下から中国の傘下に移すことをやっている。多極化についてはこれまで何度も書いてきた。以下にあらためて書いてみる。 (田中宇史観:世界帝国から多極化へ

今に続く英米の覇権体制は、英国が産業革命によって内燃機関や鋼鉄の船や鉄道を発明したことで交通の速度が飛躍的に上がり、19世紀に世界が史上初めて単一のものになり、英国が覇権国・大英帝国として世界を支配・植民地化したことで始まっている(英国は覇権運営を効率化するためフランスなど他の欧州諸国にも植民地拡大を許し、欧州列強が切磋琢磨しつつ世界を支配し、その中で英国が少しだけ飛び抜けて世界最強を維持する列強体制を作った)。英国上層部の覇権運営勢力の内部には、世界の経済発展を極大化したい資本家と、大英帝国の支配を恒久化したい帝国派がいて、資本家は植民地が発展して独立して新興諸国になることを奨励し、覇権が新興諸国に分散されて多極型の覇権体制になることを望んでいた(資本家=多極派・隠れ多極主義)。帝国派はこの動きを嫌い、世界経済の発展を阻害しても英国の世界支配を維持しようとして、資本と帝国の暗闘・相克が続いた。 (資本の論理と帝国の論理) (覇権の起源

資本家は、帝国派を潰すためにドイツなど列強内の新興諸国の台頭を誘発して2度の大戦を起こし、英国は大幅に国力が低下し、やむを得ず米国に覇権を移譲する代わりに英米第2次大戦に勝利した。米国は単独覇権でなくソ連や中国など国連安保理の5か国にも覇権を分配して多極型の覇権体制(ヤルタ体制)を作ろうとした。だが戦後、英国の帝国派が、米国上層部(諜報界)に黒幕として入り込んで「軍産複合体」を形成して覇権運営を牛耳り(帝国=軍産)、米ソ対立を扇動して冷戦体制を作り、多極型の体制を破壊した。資本・多極の側は、ベトナムイラクアフガニスタンなどで自滅的な戦争を繰り返して米国の覇権を軍事安保面で自滅させたり、ニクソンショックやリーマン危機などバブルを膨張後に崩壊させて金融面から自滅させたりして、米英単独覇権を壊しつつ中ロなどの台頭を誘発し、世界を隠然と多極化することを試みてきた。ニクソンレーガン、トランプの共和党の系譜は隠れ多極主義だ。 (米国覇権が崩れ、多極型の世界体制ができる) (資本主義の歴史を再考する

911は軍産の巻き返し策だったが多極派の別働隊だったネオコンによって失敗させられ、リーマンとその後のQEで米国の金融覇権も破綻方向になった。そこでトランプが登場し、覇権放棄や同盟システムの解体、中国を敵視することで非米諸国の雄にする米中分離策、そして極めつけは今年のコロナ危機によって、米覇権自滅と多極化を推進している。資本家と帝国派の百年の暗闘は、しだいに資本家の勝ちになっている。 (世界経済のリセットを準備する

米英(軍産、帝国派)の単独覇権戦略は「地政学」の理論(詭弁)に基づき、英米がユーラシアの外縁部をおさえ、ユーラシア大陸の内側の包囲し、内側を封じ込めて発展を阻害することで、米英覇権を維持する戦略だ。中国やロシア、イランなどがユーラシアの内陸勢力とみなされている。中国は、軍産にとって封じ込めの対象だが、対照的に資本家にとっては世界最大の人口を持つ中国こそ最も発展させたい対象だ。 (ユーラシアの非米化

資本家は中国を発展させて世界から旺盛に商品を輸入させたいが、それが実現すると中国は新興諸国として台頭してしまう(まさに今のように)。冷戦時代、中国は毛沢東文化大革命などで自滅内乱させられ、発展を阻止されていた。だが1970年代以降、米国が、経済の減速や衰退の傾向になり、世界経済の成長を維持するために中国の発展を許容するしかないという資本家側の考えが強まり、1972年のニクソン訪中を皮切りに、中国は米国(資本家、多極の側)に引っ張り上げられて経済成長する流れに入った。米英は中国に対し、安保や政治の面では一党独裁や人権侵害を口実に軍産が中国包囲網の策を取り、経済の面では資本家・多極側が米中の貿易振興など協調策をとる2面性の時代が続いた。 (歴史を繰り返させる人々

それが再転換したのは、習近平とトランプが登場してからだ。習近平は、中国から西方のユーラシア内陸部を傘下に入れて経済発展させる「一帯一路」を2013年に打ち出すとともに、自らに対する独裁を強化しつつ、米国との対立を避けてきたトウ小平以来の中国上層部の考え方を排除し、中国を米国と対等な地位まで引っ張り上げ始めた。「一帯一路」はまさに地政学的逆転を引き起こし、産業革命以来の米英資本家の夢を実現するものだ。 (米国の多極側に引っ張り上げられた中共の70年

トランプは、それまでの「政治は対立でも経済は協調」という米国の中国政策を離脱して、政治も経済も中国敵視に転換した。トランプは中国敵視を強化するようにみせかけつつ、米国を恐れなくなった習近平の中国をさらに大胆にする方向に押し出し、中国の台頭や覇権の多極化を誘発する動きをしている。トランプは同時に、稚拙なやり方でイランを敵視してイランを中国の傘下に入れるように仕向けたり、アフガニスタンから撤兵して、パキスタン、アフガン、イランの全体を中国の傘下に移転させる策もやっている。この傾向はトランプの再選後さらに強まる。 (世界経済を米中に2分し中国側を勝たせる

資本と帝国の暗闘は、百年ぶりに資本側が全面的に優勢になっている。現時点ですでに、ユーラシアにおける中国の影響力は数年前よりはるかに強くなっている。今後それがさらに進む。これは世界の実体経済の成長を加速したい資本家が意図することであり、資本家の代理人であるトランプがこの流れを扇動している。同時にトランプの米国は、すでに書いたように、アジア版NATOなど中国敵視増強のふりをしつつ、日韓から米軍を撤退していく。日韓は、世界資本家の意思に逆らえないので、対米従属をあきらめ、経済を中心に中国との経済を強め、中国の傘下に移っていくしかない。 (中国が好む多極・多重型覇権

きたるべき多極型世界において、ユーラシア東部の地域覇権国は中国だ。中国圏から自立して、日本がTPP11を利用した海洋アジア圏(日豪亜)を作るとか、インドが 南アジア圏を作るとか(印パの和解が前提)、そういうことは容認されている。だがそれらは具現化していない。なぜなら、日本やインドがそれをやりたがらないからだ。日本やインドは米国の覇権がずっと続くと勘違いしてきた。自国の影響圏形成にも消極的だ。日本は「敗戦国」なので覇権希求を自らご法度にしてきたが、インドは違う。インドは間抜けだ。安倍はトランプから「お前にTPPをやるから豪州と協力して自国の影響圏を作ったらどうか」と言われたのに生かさず、中国に対して「TPPを一帯一路と合体したいです」と表明してすり寄った。この時点で、日本がとりあえず中国の傘下に入ることが決まった。長期的には、独自の影響圏形成など変更があり得るが。 (米国の中国敵視に追随せず対中和解した安倍の日本) (日豪は太平洋の第3極になるか

とはいえ、中国は、一帯一路に象徴されるユーラシア内陸の経済圏・地域覇権に最大の関心がある。海洋アジアへの支配欲は強くない(少なくとも今のところ)。中国はもともと(明代に)「海禁」の国である。

英国は、自ら能動的に世界の単一化や国際社会の創設を手掛けただけに、世界に対する支配欲も強い。対照的に中国は、自国を近代国家や市場経済として統合・発展させる際に、共産主義社会主義市場経済など、欧英が開発したシステムを借りて改造してきた歴史があり、まず自分たちをうまくまとめることに苦心してきた。中国は少なくとも今のところ、英米にとって代わって世界支配しようという気がない。習近平は、英米資本家の誘導に沿って一帯一路でユーラシアの地政学的逆転を進めているわけで、英米にとって代わるどころか、英米と協力して国際活動をしている。中国はかつて「非同盟諸国」の国際政治運動をしていたが、これも軍産にしてしてやられた冷戦を乗り越えたかった資本家・多極側の意に沿っていた。中国は、ロックフェラーなど国際資本家と仲が良い。この点は、日本などの左翼(左の教条主義者たち)が認めたがらないことだ。 (世界資本家とコラボする習近平の中国

 

 



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