枝廣淳子さんから


                  Enviro-News from Junko Edahiro


                      No. 2722 (2019.11.18)

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幸せ・経済・社会の分野で、地球と社会と人間の持続可能性を考える上での大事な本を読んで考える幸せ研の読書会、11月22日には「子どもの貧困」(渡辺由美子著)を取り上げます。

著者の渡辺さんが指摘されているように、日本の貧困、とくに子どもの貧困は見えにくいことから、あまり意識することがないのですが、実際には7人に1人が貧困層と言われ、当人たちはもちろん、日本の社会の未来をも苦しめる貧困の連鎖の構造があります。

その構造とはどのようなものか? 日本の子どもの貧困の実態はどうなっているのか? 対策や取り組みは? 私たちは、個人として、企業など組織として、何ができるのか、どうすべきなのでしょうか?

今回の読書会はスペシャルです! 2007年に、貧困家庭の子どもたちに学習支援を行うキッズドアを立ち上げ、日本の子どもの貧困問題に取り組んで来られた著者の渡辺由美子んが来てくださいます。著者から直接お話をうかがい、質疑応答やディスカションができる貴重な機会です。ぜひご参加ください。


2019年11月22日(金) 18:30~21:00

会場:東京都千代田区

課題図書:『子どもの貧困』(著:渡辺由美子) 
https://amzn.to/32rO8v5


先日別の機会にうかがった渡辺さんのお話から、印象に残ったところをいくつかご紹介します。


~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~


日本の子どもの貧困の中で一番の問題は「貧困の連鎖」にある。海外では子どもは社会で育てていくものと考えているため、子どもを育てるためのお金や教育費(日本の児童手当のような)は、税金の再分配で賄われている。それに比べて日本では、子育てや教育に親のお金を多く使わなければならない。

日本は手当や再配分が少ないので、親の収入が少ないと、子どもたちは十分な教育が受けられないことになる。十分な教育を受けることができないと、進学や就職に不利になり、また収入の高いところにも就職できないため、貧困の連鎖とが続く。

キッズドアでは「すべての子どもが夢や希望を持てる社会の実現」をビジョンにしているが、これは裏を返すと、夢や希望を叶える前に、夢や希望を持つことがそもそも難しい子どもたちがいるということを意味している。これはまさしく格差の問題。なぜ格差の連鎖が良くないかと言えば、子どもたちが「自分のうちは貧乏だから自分はだめだ」とすべてを否定してしまうところにある。

例えば、うちは母子家庭だからお金がない→お金がないからどうせ大学にはいけない→大学もいけないなら勉強もしたくない、学校もいきたくない、といった流れからなんとなく悪い方にいってしまい、その結果、社会不安を引き起こすこともあると言われている。つまり、格差を放置したままにすると、社会不安が起こりやすいという流れになっている。

日本の子どもの7人に1人が貧困と言われている。貧困を計る尺度には、絶対的貧困相対的貧困の2つがあり、絶対的貧困は、ユニセフなどがやっている、途上国で食事や医療にアクセスができない子どもたちのことで、死んでしまう可能性のある子どもたちのことで、基準としては1日1.9ドル以下の収入で暮らす子どもたちのことを言う。

もう一つは相対的貧困。これも国際的に決まっている尺度(所得)での測り方で、可処分所得の低い所得から高い所得を並べて、統計で言うところの中央値をとり(その国の真ん中)、その半分未満の収入で暮らす方たちのことを指す。※平均だと高ぶれをするため、平均の値は取らない)。

日本の相対的貧困は、単身者だと122万円、母子家庭+子ども一人の場合は、年間177万円未満の収入で暮らす生活をしている方たちのことを言う。日本は一億総中流で、貧困で苦しむ人たちはいないと少し前までいわれていたが、蓋を開けてみたら貧困率は高く、子どもの貧困率OECD加盟34カ国の中で9番目を数え、平均よりも高い位置にいる。

日本の大きな問題は、ひとり親家庭の子どもの貧困率が非常に高いことにある。日本では多くが母子家庭で、半分以上(50.8%)が貧困にある。ひとり親家庭貧困率でいうと、OECD加盟34カ国中1番である。

ひとり親家庭相対的貧困率は一番で、ダントツ一位。そして、ひとり親世帯の就労率も先進国一位。つまり、世界一働いているのに、世界一貧困という実態が見えてくる。窮極のワーキングプア状態が日本のひとり親家庭で起きているのだ

決して怠けているわけではなく、社会構造の欠陥である。ひとり親の家庭はほぼ母子家庭で、ここにはジェンダーの問題もある。日本の女性の方は子ども産む時に一度会社を辞めて、復職するときにはパートしかないとか、賃金が安い事なども影響している。

もうひとつ大きな問題が教育格差。親の収入で子どもの学力が決まるということが全国学力調査結果で明確に出てきている。親の収入が高ければ、点数が高く、収入が低いと比例して点数が低くなっている。収入の高い家にIQの高い子ばかりが生まれるわけではないので、本来的にはこうなってはいけないのだが、現実はこういう状況になっている。収入が低い家に生まれると、子どもの学力の差がでてしまうことを、なんとかしなければならないと思っている。

少子化が進んでいる。2018年の出生数は91.8万人で、今年は90万人を切るといわれている。3年間で80万人台になる可能性が高いとすると、更に3年後には70万人台になるとも考えられる。

なぜ子どもを生みたいと思う人は多いのに生まないのだろうか。アンケートを取ったところ、子育てにお金がかかり、とても自分たちでは育てられないという回答がダントツ1位になっている。子育てや教育にお金がかかりすぎる構造が、貧困や少子化につながっている。こうした問題構造がわかっている今、子どもやこれから家庭を形成する若者にお金を回すしくみにしなければならない。

<キッズドアとは>
無料塾・無料の居場所を提供している。大学生・社会人・シニアのボランティアに協力してもらい、無料で勉強を教え、高校受験突破や高校中退を予防する活動をしている。また、ようやく高等教育無償化となったので、その先の大学も目指す子どもたちも支援をしている。


~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~


渡辺さんのご著書『子どもの貧困』から、キッズドアの具体的な活動や、そこから見えてくる日本の貧困の現状や構造的な課題、子どもたちの姿や成長、状況を変えるための取り組みなど、多くを学ばせていただきました。

読書会では、渡辺さんから「本に書き切れなかったこと」「さらに思っていること」などもお聞きしながら、みんなでこの日本の構造的な問題を知り、改善の手立てを話し合い、自分にできることを考えていきたいと思います。子どもや社会問題にご関心のある方、ぜひご参加ください!

詳細・お申し込みは、こちらへどうぞ。
https://www.ishes.org/news/2019/inws_id002711.html