枝廣淳子さんのメールから

就職を考える○○さんへ

○○さんへ。お便り拝見。もう就職を考える年齢なのですね!

自分は地元に残りたいのに、ご両親が「田舎には将来がないから、都会に出て行っ
て就職しろ」と譲らないとのこと、東京と地方の両方で活動している私はどう思
うか? とのご質問ですね。

私はねえ、「未来は地域にしかない」と思っているんですよ。心から。

今は東京も元気ですよ。五輪までは建設業もサービス業も好況で、人手不足がハ
ンパない。地方から見たら「東京は潤っているなー、あそこに行けば将来も安泰
だろう」と思えるのでしょうね。

でもね、東京都も2030年には人口が減り始める。45年には東京都民の3割が高齢
者です。東京の高齢化の急激さは地方の比じゃないですよ。これまで地方から東
京に移住した大量の若者たちも高齢化していきます。

11年から40年の間に65歳以上の高齢者がどのくらい増加するかを調べてみると、
高齢化率の高い秋田県高知県ではたったの千人であるのに対して、東京都では
128万3千人も増えて、40年には400万人になります。130万人近くもの増加にどう
対応していくのでしょう?

そして、東京都の生産年齢人口は11年から16年の間に約2万3千人減っている。つ
まり、東京都は「人口は増えているが、生産年齢人口は減少し、高齢者が急増す
る」という状況なのです。

しかも、これまではビジネスや働く人のためのまちづくりをしてきましたからね、
医療機関介護施設も足りないし、在宅サービスも整っていない。近隣や地域の
支援もあてにできません。

今後、大都市部では、医療や介護といった社会保障費が増大し、高齢者も暮らし
やすい町に転換するコストも莫大にかかるでしょう。労働人口が減れば、税収も
減るかもしれない。すると、大都市部に住み続ける人は、負担増とサービス低下
に直面? それを嫌って、地方への移住者や移転企業が増えれば、残る人の負担
はますます大きくなります。最悪の場合、かつて同様の状況下で100万人規模で
人が出て行ったニューヨーク市のように、大量の東京脱出が始まるかも?

不確実で不安定なこの時代に幸せな人生を送るためには、何があってもつぶれず
にしなやかに立ち直れる力(レジリエンスといいます)が大事。去年9月に全道
ブラックアウトが起こったとき、私はたまたま北海道の下川町という小さな町に
いました。町の人々は声を掛け合って安否を確認し、ガス炊飯器のあるおうちが
炊き出しをして、オール電化で途方に暮れている人たちに配っていました。いた
だいたおにぎりを頬張りながら、被災するんだったら大東京ではなく、地方の町
がいい! と思いましたよ。平時だって、地方なら家庭菜園や田んぼを借りて、
自分たちの食べ物を作れる。助け合えるご近所さんもいる。これがこれからの幸
せの鍵じゃないかなあ?

ご両親の助言はこの40年間の経験からのものでしょう。でも、あなたが生きてい
く次の40年間は、これまでとは大きく違うものになる。「どういう時代に生きて
いくのか」をしっかり考えてね。がんばってね! 

                            枝廣淳子