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大谷翔平はなぜ走力が高いのか――肩甲骨に秘密あり

MLB1年目の大谷翔平選手が、期待以上のパフォーマンスを発揮できている。運動科学研究の第一人者であり、5月7日に『肩甲骨が立てば、パフォーマンスは上がる!』を上梓した高岡英夫氏は活躍の理由として”肩甲骨の使い方”を挙げる。

2018/07/02 NEW

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Getty Images、運動科学総合研究所

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肩甲骨が自由に動くことで、腸骨にも影響

 バッティングとピッチングの二刀流に加え、大谷選手は足が速いということで、さらなる衝撃を与えています。実際に彼の走塁スピードはメジャーリーグでもトップクラスです。身長は193cmですが、普通そのくらいの身長になると、足が速いということはなかなか考えにくい。しかも彼は投手です。あのようなベースランニングができるなんてことは普通は絶対に考えられないのです。投手ですから怪我のリスクをおかしてはいけないので、おそらく盗塁を狙おうとする機会もそれほど多くはないと思いますが、盗塁をしようと思えばいくらでもできることでしょう。
 
 なぜ、そんなに足が速いかというと、これも実は肩甲骨に秘密があります。実は、肩甲骨が自由に動くことによって、腸骨も動くようになるのです。
 
 腸骨は仙骨の左右両側にある2つの骨で、仙骨とともに骨盤を構成している骨です。左右の腸骨には股関節がひとつずつあり、腸骨はそこから大腿骨、つまり足と繋がっています。腸骨と肩甲骨は、私の研究によって「相似器官」であることが判明しています。「相似器官」というのは身体の中で互いに似た働きをする運動器官という意味です。
 四足動物を思い出してほしいのですが、チーターのような四足動物は肩甲骨が「ズレ回転運動」をします。イメージ的には、まるで機関車の動輪のように肩甲骨が「ズレ回転運動」を起こすわけです。実はチーターの場合、その運動とそっくり同じように下半身の腸骨が矛盾なく動くのです。もし前足でやっていることと、後足でやっていることが違っていたらどうでしょう? 前足だけが見事な動きをして、後足が下手クソな動きをしていたら、とても時速110kmでは走れないでしょう。後足がネックになって前足も足をひっぱられちゃいますよね(笑)。
 
■チーターの肩甲骨と腸骨のズレ回転運動
 

 
 ではどうしたら、前足の運動と後足の運動を同じレベルにもっていけるかを考えてみてください。同じようなパーツを作って同じような動きをさせるのが一番合理的だとは思いませんか? 実は、動物の体はそのようにできているのです。私は動物の体と運動について研究し、そのことを発見しました。肩甲骨と腸骨は、身体運動の中で「相似器官」として同じような運動をしているのです。
 大谷選手の場合、走るときにも肩甲骨が自由に動き、働いています。そうすると何が起きるかというと、「相似器官」である腸骨も当然そのレベルに合わせて同じように働き出すのです。すでに説明したように、大谷選手はバッティングにおいてもピッチングにおいても見事に肩甲骨を使っています。
 
 走るときにも、バッティングとピッチングで鍛えられている肩甲骨がそのまま使われているのです。その結果、腸骨が肩甲骨と同じ高いレベルで働いてしまうのです。このように肩甲骨と腸骨が、お互いにリンクして働くことを「甲腸連動」といいます。これは極めて重要な身体の法則ですが、この「甲腸連動」が見事に起きているから、大谷選手はあれだけの走力を誇ることができるのです。
 
■甲腸連動による走りのイメージ